はじめに
天皇ご一家が公務の合間に心身を休める場所として、御用邸は特別な役割を果たしています。これらの施設は、皇室のプライベートな時間を支えるとともに、日本の自然や歴史を体現する場所でもあります。本記事では、御用邸の概要、歴史、そして現在利用されている3つの御用邸(那須、葉山、須崎)の詳細を紹介します。
御用邸とは
御用邸は、天皇・皇后・皇太子や皇族が静養や避暑・避寒のために利用する別荘のような施設です。宮内庁によると、一定規模の建造物と敷地を持つものは「離宮」、小規模なものは「御用邸」と定義されています。御用邸は、皇室のプライバシーを守りつつ、自然豊かな環境でリフレッシュできる場所として設計されています。現在、日本に現存する御用邸は以下の3カ所です:
・那須御用邸(栃木県那須郡那須町)
・葉山御用邸(神奈川県三浦郡葉山町)
・須崎御用邸(静岡県下田市)
これらの施設は、皇室の静養だけでなく、歴史的・文化的な価値も持ち合わせています。
<御用邸の歴史>
御用邸の起源は、幕末から明治時代に遡ります。当時、皇室の子供たちの健康問題が深刻で、侍医団が避暑や環境改善を目的とした施設の建設を提案しました。これがきっかけで、1883年(明治16年)頃から離宮や御用邸の整備が始まりました。しかし、明治天皇自身はこれらの施設をほとんど利用せず、主に皇后や皇太子(後の大正天皇)が使用しました。
戦前には、那須や葉山以外にも熱海、鎌倉、静岡などに御用邸が存在しましたが、1930年(昭和5年)の宮内省による整理計画や戦後の焼失・払い下げにより、多くの施設が廃止されました。現在残る3つの御用邸は、歴史的な変遷を経て、皇室の静養地として引き続き使用されています。
<現存する御用邸の詳細>
1. 那須御用邸(栃木県那須郡那須町)
歴史と概要:那須御用邸は、1926年(大正15年)に本邸が、1935年(昭和10年)に附属邸が完成しました。東京ドーム約142個分、皇居の6倍近い広大な敷地を持ち、那須湯本温泉近くに位置します。敷地内にはブナの自然林や希少な動植物が生息し、自然環境の保全が重視されています。1997年から5年間、栃木県立博物館による調査が行われ、豊かな生態系が確認されました。その結果、敷地の約半分(560ha)が「那須平成の森」として一般開放されています。
施設の特徴:本邸は洋風の木造2階建て(一部3階)で、延べ床面積約2,840平方メートル、60室を有します。昭和天皇の晩年にバリアフリー対応が施され、エレベーターも設置されています。附属邸や休憩所「嚶鳴亭」もあり、ご一家は敷地内の散策や自然観察を楽しんでいます。
最近の利用:天皇ご一家は例年夏や秋に那須御用邸を訪れます。2024年9月12日には、天皇皇后両陛下と愛子さまが1週間滞在し、市民と交流しながら散策を楽しまれました。愛子さまは「那須でしかできない経験や楽しみを大切に」と語り、自然を満喫する様子が報道されています。
魅力:那須の涼しい気候と豊かな自然は、皇室にとってリフレッシュの場として最適です。ご一家が「かりゆしウェア」を着てリラックスする姿や、市民との温かい交流が印象的です。
2. 葉山御用邸(神奈川県三浦郡葉山町)
歴史と概要:葉山御用邸は、1894年(明治27年)に建設され、戦前は裕仁親王(昭和天皇)や良子妃がゴルフを楽しむなど、皇室の避暑地として親しまれました。本邸は鉄筋コンクリート造の平屋で、地下室には海洋生物研究用の研究室があります。附属邸は、1934年(昭和9年)に三井家の別荘を改築したスペイン風の建物です。
施設の特徴:敷地内にはプライベートビーチや、昭和天皇が愛したパッションフルーツの柑橘園があります。和風建築に最高の材料と技術が用いられ、守谷表具店など地元の職人がメンテナンスを担当しています。
最近の利用:葉山御用邸は夏の静養に適しており、昭和天皇や上皇ご夫妻も頻繁に利用されました。現天皇ご一家も訪れることがあり、海辺での散策や研究活動が行われることがあります。
魅力:海と山に囲まれた葉山の風光明媚な環境は、皇室のプライベートな時間を彩ります。海洋生物研究の歴史も、皇室の学問への関心を象徴しています。
3. 須崎御用邸(静岡県下田市)
歴史と概要:須崎御用邸は、1899年(明治32年)に設置され、伊豆半島の温暖な気候を活かした避寒地として利用されてきました。戦後は一時使用が減りましたが、近年は夏の静養地として再び注目されています。
施設の特徴:海に近く、温暖な気候が特徴です。敷地内には自然が保たれ、散策や海辺での時間が楽しめます。ただし、2024年は記録的な大雨の影響で、5年連続で夏の訪問が見送られました。
最近の利用:2025年8月上旬に、天皇ご一家が須崎御用邸で静養される予定と報じられています。これは、那須に続く夏の2回目の静養となります。
魅力:温暖な伊豆の気候と海の美しさは、冬だけでなく夏の静養にも適しています。地元の歓迎ムードも、皇室と地域の絆を深めています。
<御用邸の役割と現代的意義>
御用邸は、皇室の静養だけでなく、国民との交流の場としても機能します。那須御用邸での市民との対話や、愛子さまの温かい言葉がメディアで報じられるたび、皇室の親しみやすさが伝わります。 また、那須平成の森のように、自然保護や一般開放を通じて社会に貢献する取り組みも進んでいます。
一方で、御用邸の維持には多額の費用がかかり、国民の税金が投入されるため、戦前の多くの御用邸が廃止されました。こうした財政的考慮もあり、現代では、3カ所に絞られた御用邸が、皇室の伝統と国民の理解のバランスを保ちながら運営されています。
おわりに
那須、葉山、須崎の御用邸は、それぞれの地域の自然と歴史を反映した、皇室の大切な静養地です。天皇ご一家がこれらの場所で過ごす時間は、公務の重責を担う中での貴重な休息のひとときです。国民としては、ご一家がリフレッシュし、笑顔で公務に戻られることを願うとともに、御用邸が持つ文化・自然の価値を再発見する機会になるといいですね。
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