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【世界水泳で気になった;参加国?NABとは?】
「NAB」とは、世界水泳選手権で使われる特別なコードで、具体的には、「Neutral Athletes B(中立選手B)」の略で、特定の国を直接指すものではありません。
NABは「ロシアの中立選手」を指すコードで、国としての出場ができないロシア選手が個人資格で参加する際に使われます。政治的な背景から生まれた特別な表記です。

<背景>
ロシアとベラルーシは、2022年のウクライナ侵攻を理由に、国際水泳連盟(World Aquatics)から国としての出場を禁止されています。しかし、戦争に直接関与していない「潔白な」選手に限り、厳格な審査を経て個人資格で出場が認められています。この場合、彼らは国旗や国歌を使わず、「中立選手」として競技に参加します。

NAB:ロシア出身の選手(Neutral Athletes B)
NAA:ベラルーシ出身の選手(Neutral Athletes A)

このコードは、選手がどの国出身かを直接示さないようにするための措置です。たとえば、2025年シンガポール大会では、NABの選手がアーティスティックスイミングで銀メダルを獲得し、注目されました。

<なぜこんな仕組み?>
・政治的背景:ロシアとベラルーシに対する国際的な制裁の一環として、国を代表する形での参加が禁止されています。
・選手の機会確保:政治的な問題に関与していない選手には、スポーツの場で活躍する機会を与えるため、中立での参加が許可されています。
・制約:NABの選手はロシアの国旗や国歌を使用できず、あくまで個人として競技に参加します。

<2025年世界水泳シンガポール大会では、NAB(ロシアの選手)の活躍>
2025年世界水泳シンガポール大会(7月11日~8月3日)で、NAB(Neutral Athletes B、ロシア出身の中立選手)は合計7つのメダル(金2、銀3、銅2)を獲得し、以下の競技で活躍しました。

アーティスティックスイミング:
・金メダル:混合デュエット(テクニカル、マヤ・グルバンベルディエワ&アレクサンドル・マルトセフ、233.2100点)。
・銀メダル:チームテクニカル(「剣の舞」演技)、アクロバティックチーム。
・銅メダル:女子デュエット(フリー、マヤ・ドロシュコ&タチアナ・ゲイダイ)、混合デュエット(フリー、マルトセフ&オレシア・プラトノワ)。

競泳:
・金メダル:男子4×100mメドレーリレー(3:26.93、ヨーロッパ新記録)、混合4×100mメドレーリレー(3:37.92、大会新記録)。
・銀メダル:混合4×100m自由形リレー(3:19.68)、女子200m平泳ぎ(エフゲニア・チクノワ、2:19.96)。
・銅メダル:男子400m個人メドレー(イリア・ボロジン、4:09.16)。

飛び込み:
・金メダル:混合シンクロ3m飛び板(アレクサンドル・ボンダル&アンナ・コナニキナ、180.30点)。

<中立選手コードが使われる主なスポーツ>
1.陸上競技(World Athletics)
・コード: ANA(Authorised Neutral Athlete)
・背景: 2017年のロシアのドーピングスキャンダル以降、陸上競技ではロシア選手が中立選手として参加。2022年のウクライナ侵攻後、ANAの枠組みがロシアとベラルーシ選手に適用され、厳格な基準(戦争支持の表明がないことなど)を満たした選手のみ参加可能。
・例: 2017年ロンドン世界陸上選手権では、19人のロシア選手がANAとして出場。2019年ドーハ大会でも29人が中立選手として競技に参加した。

2.テニス(International Tennis Federation, ITF)
・コード: 明確なコード(例: ANAやAIN)は使用されないが、中立選手としての参加が許可。
・背景: ロシアとベラルーシの選手は国旗や国歌なしで個人として出場可能。グランドスラムやATP/WTAツアーでは、選手名のみで国籍表示を避ける形が一般的。
・例: ウィンブルドンや全米オープンで、ロシアのダニール・メドベージェフやベラルーシのアリナ・サバレンカが中立選手として出場。

3.モータースポーツ(Fédération Internationale de l'Automobile, FIA)
・コード: ANC(Authorised Neutral Competitor)、AND(Authorised Neutral Driver)、ANO(Authorised Neutral Official)
・背景: ロシア人ドライバーは中立資格で参加可能。国旗や国歌は使用せず、個人としてのエントリーが認められる。
・例: FIA世界ラリー選手権で、ロシアのニコライ・グリャジンやコンスタンティン・アレクサンドロフがANAとして出場。FIAフォーミュラ3では、ロシア人ドライバーが「AND」ライセンスで参加。

4.自転車競技(Union Cycliste Internationale, UCI)
・コード: 明確な中立選手コードは使わず、「中立参照(neutral reference)」として参加。
・背景: ロシアとベラルーシの選手は国旗やエンブレムを外し、中立選手としてレースに参加。チームや国の表示は禁止。
・例: ツール・ド・フランスなどの主要レースで、ロシア人選手が中立選手として出場しているが、特定のコード名は使用されない。

5.フェンシング(International Fencing Federation, FIE)
・コード: ANA(Authorised Neutral Athlete)
・背景: ロシアとベラルーシの選手は中立選手として参加可能。2023年世界フェンシング選手権では、ロシアのアンナ・スミルノワがANAとしてウクライナのオルガ・ハルランと対戦した例がある。
・例: スミルノワは国旗なしで試合に参加し、個人成績に基づいて競技。

<共通点と特徴>
・目的: これらのスポーツでは、ロシアやベラルーシの選手が国の代表としてではなく、個人として競技に参加できるようにするため、中立選手コードが導入されています。これは、国際オリンピック委員会(IOC)のガイドラインに基づき、戦争支持の表明がないことや軍との関係がないことなどの厳格な基準を満たす必要があります。
・制限: 国旗、国歌、国名の使用は禁止され、選手は中立的な立場で競技。中立選手が金メダルを獲得した場合、所属国の国歌ではなく、競技団体の公式アンセム(例: World Aquaticsアンセム)が演奏されます。
・例外: 一部の競技(例: 陸上競技のWorld Athletics)では、ロシアとベラルーシ選手の完全な出場禁止を維持している場合もあります。

<水泳連盟との違い>
・水泳連盟(World Aquatics)では「NAB」(ロシア)、「NAA」(ベラルーシ)といった具体的なコードが割り当てられ、2024年11月以降はリレーやチーム競技(アーティスティックスイミングなど)にも参加可能になりました。
・他のスポーツでは、コードの名称(ANA、AINなど)や適用範囲が異なる場合があります。たとえば、テニスや自転車競技では明確なコード名を避け、単に「中立」として扱うことが多いです。

<まとめ>
「NAB」のような中立選手コードは、陸上競技(ANA)、テニス、モータースポーツ(ANC/AND)、自転車競技、フェンシングなどで使われていますが、コード名や運用方法は競技団体によって異なります。これらは主にロシアとベラルーシの選手が、ウクライナ侵攻による制裁下で個人資格で競技に参加するための仕組みだということが分かりました。
ただし、中立選手の参加には賛否両論があり、スポーツと政治の複雑な関係が浮き彫りになりました。

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