<概要>
H-IIAロケット(以下、H2A)は、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業(MHI)が開発した人工衛星打ち上げ用液体燃料ロケットで、2001年から2025年まで日本の宇宙開発を支えた主力ロケットです。高い信頼性(成功率約98%)を誇り、国内外の衛星や探査機を多数打ち上げました。2025年6月29日の50号機打ち上げをもって引退し、後継機のH3ロケットにバトンタッチしました。
<開発と運用開始>
起源: H2Aは、1990年代に運用されたH-IIロケットの改良版として開発されました。H-IIは国産技術を基盤とした初の液体燃料ロケットでしたが、信頼性とコスト面で課題がありました。H2Aはこれを克服し、設計の簡素化や打ち上げコストの削減(約100億円/回)を図りました。
初打ち上げ: 2001年8月29日、種子島宇宙センターから1号機が打ち上げられ、成功。以来、人工衛星や探査機の打ち上げを担う基幹ロケットとして位置づけられました。
<主な実績>
打ち上げ実績: 2001年から2024年9月までに49回打ち上げられ、2003年の6号機(情報収集衛星搭載)の失敗を除きすべて成功。成功率97.96%(49回中48回成功)。最終50号機は2025年6月29日に温室効果ガス観測衛星「いぶきGW」を搭載して打ち上げ成功し、有終の美を飾りました。
<主要ミッション>:
はやぶさ2(小惑星リュウグウのサンプルリターン)
SLIM(日本初の月面着陸探査機)
情報収集衛星(光学・レーダー衛星で安全保障や災害対応に貢献)
**環境観測衛星「みどりII」**や測位衛星「みちびき」など
海外衛星の打ち上げ(カナダ、英国、韓国、UAEの衛星など5基)で国際的な衛星打ち上げビジネスにも参入。
民営化: 2007年の13号機以降、打ち上げ業務がJAXAから三菱重工業に民営化され、衛星打ち上げビジネスの展開を加速。
<課題と引退の背景>
打ち上げ費用の高さ: 1回約100億円のコストは、SpaceXの「ファルコン9」など海外競合に比べ割高で、価格競争力に課題。
施設の老朽化: 種子島宇宙センターの設備老朽化に伴う維持コスト増大。
後継機への移行: より低コストかつ高性能なH3ロケットの開発が進み、H2Aの役割を終えたため、50号機で運用終了。
<地域と文化への影響>
種子島宇宙センターでの打ち上げは地元経済や雇用に貢献。多くの子供たちや宇宙ファンが打ち上げを見学し、宇宙への関心を高めました(例: 橋本龍之介さんのエピソード)。H2Aは日本の宇宙開発の象徴として、技術者や地域住民の誇りでもありました。
「次世代ロケット(H3ロケット)」について
<概要>
H3ロケットは、H2Aの後継としてJAXAと三菱重工業が開発した次世代液体燃料ロケットです。H2Aの高い信頼性を維持しつつ、打ち上げコストの削減(約50億円/回)と性能向上を目指しています。2023年の初号機失敗を乗り越え、2024年以降安定した打ち上げ実績を積み重ねています。
<開発目的と特徴 >
コスト削減: H2Aの約半分(50億円)の打ち上げ費用を目指し、国際競争力を強化。設計簡素化や部品の標準化でコストダウンを実現。
性能向上: 多様な衛星に対応可能な柔軟性と、静止軌道や月・惑星探査ミッションに対応する高い打ち上げ能力。
民間主導: H2A同様、三菱重工業が製造・打ち上げを担当し、民間ビジネスの拡大を視野に入れる。
<運用状況 >
初号機(2023年): 打ち上げ失敗。原因究明と改良を施す。
以降の進展: 2024年2月の5号機まで4機連続で打ち上げ成功。2025年度中に低コスト形態での打ち上げを計画。
<主なミッション>
測位衛星「みちびき6号機」など、日本の衛星インフラ強化に貢献。
<今後の展望 >
国際競争力: SpaceXなど低コストロケットとの競争で、H3は価格と信頼性の両立を目指す。海外衛星の受注拡大も期待される。
技術革新: 新たな打ち上げ形態や再利用技術の導入も視野に入れ、日本の宇宙開発の国際的地位向上を目指す。
人材育成と市場拡大: 日本の宇宙産業は衛星製造数で米中と差があるが、H3の成功を背景に小型衛星市場や宇宙学の教育強化で挽回を狙う。
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